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高級「生」食パン専門店『乃が美』から学ぶ小さな会社のブランディング。

みなさんこんにちは。ハッピーブランディングラボの和田康彦です。

 

日本全国で多い日には一日何と80,000万本以上売れている高級「生」食パン専門店「乃が美」。2013年10月に大阪で創業し、わずか6年8ヶ月で目標だった全国47都道府県に出店、2020年9月現在189店舗を展開するほどの成長ぶりを見せています。

今回は、今や高級「生」食パンの代名詞にもなっている「乃が美」躍進の背景について、ブランディングという観点から分析していきたいと思います。

 

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◆どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい。

お父さんの事業の失敗から、幼いころ食べる事にも苦労していたという創業者の阪上雄司社長は、「おいしいものをお腹いっぱい食べてもらえる場所をつくろう」という想いから、飲食店経営の道に進みます。その後20年以上に亘って飲食店経営に携わってきましたが、流行や世情に左右される飲食店業界は粗利も低く、「どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい」という想いが日に日に強くなっていったそうです。

 

◆ふわふわの柔らかい食パンをつくろう。

「長く愛されるものって何だろう?」阪上社長は来る日も来る日も考え続けました。そんな時、大阪プロレス協会の会長として慰問していた老人ホームのおじいちゃんやおばあちゃんからこんな声を聞きます。「食べている時がいちばんしあわせ。でも朝食に出てくるパンは耳が固くて食べられへん」。また、卵アレルギーの自分の子供が毎日「パサパサの食パン」を食べていることも気になっていました。

 「そうだ!耳までおいしい、ふわふわの柔らかい食パンをつくろう!」阪上社長の心に芽生えたそんな熱い想いが、乃が美を生み出す原点になったといいます。この信念の裏には、長年の飲食店経営から学んだ「柔らかくて甘いものは流行の定番」という同氏ならではの勘や信念もあったようです。

 

◆こだわりこだわり抜いて、完成まで2年。

パン作りは全くの素人でしたが、「卵を一切使わないのに、ちぎってそのまま食べられるほど柔らかくてほんのり甘い食パン」を目指して開発はスタート。粉の種類、材料の配合、ミキシングのタイミング、焼く温度と時間など何度も何度も試行錯誤し、ようやく2年後「やわらかさ」「きめ細かさ」「甘み」「香り」すべてにおいて納得のいく食パンが完成しました。

 

ミキシングされた生地はトロトロになったお餅のようなテクスチャー、焼き上がりは「腰折れ」に近いぎりぎりの柔らかさで、これまでのパン作りの常識では考えられない状態だったといいます。

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◆徹底した素材への吟味から、乃が美の高級「生」食パンは生まれる。

 一度食べたらやみつきになってしまうもちもちの食感が人気の乃が美。美味しさの秘密は徹底した素材へのこだわりと吟味にあります。小麦粉には日本の農家が米をつくるのと同じくらい手間ひまかけてつくられたオリジナルブランドの小麦粉を使用。これによって、焼き上がりの香りが抜群で、すっととろけるような理想的な柔らかさを実現しています。またそれまでバターでは出せなかった小麦粉や蜂蜜の風味を極限まで引き出すために高級オリジナルマーガリンを使用。耳までおいしい食感が生み出されました。

 

◆通常の倍の価格でも、少しずつ想いが伝わって行列のできる店へ。

乃が美の高級「生」食パンは、高級という名前が示す通り、1芹432円(税込)、2芹864円(税込)と通常の食パン価格の倍以上のお値段です。当初は「そんな高いパン、売れるわけがない」と周りの人からも非難され、その言葉通り売れ残りの山だったといいます。しかしながら、地道に試食してもらうことで徐々に、乃が美のこだわりの美味しさが伝わっていきます。「うちの子はアレルギーなんで、乃が美さんのパンじゃないと食べさせられない」というお母さんや、「うちのおじいちゃん、このパンでないと食べないのよ」という娘さんなど、乃が美ファンはどんどん増えて、大阪の裏路地にある乃が美の店の前には毎日長い行列ができました。

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◆マスコミの力で知名度が一気にアップ。

パンブームの兆しがあった当時、行列ができる店をマスコミが放っておくわけがありません。大阪の情報番組ではこぞって乃が美のこだわりや愛用者の声を取り上げました。その結果、消費者の心の中には、「一度は食べてみたい高級「生」食パン乃が美」というイメージが醸成されます。そういう私も、テレビで紹介されてすぐに、大阪上本町にある総本店を訪れたことを思い出します。ただ、その日はあいにく売れ切れで悔しい思いをして帰ってきました。その後、2017年から2019年まで3年連続で、「Yahoo!検索大賞 食品部門賞」を受賞。また、マガジンハウスの「&premium」という雑誌で『日本の食パン、名品10本。』に取り上げられるなど、全国区に押し上げられます。さらにSNSの普及も手伝い、パンマニアのブログや芸能人にも取り上げられるようになり、乃が美の魅力は一気に拡散していきます。

 

◆乃が美のブランディングから学ぶ

ここまで見てきたように、「歴史に残る日本一の食パンブランド」を目指している乃が美には、小さなお店や会社が学べるブランディングの本質が詰まっています。

 

①  揺るぎない信念とビジョン、理念

「ブランドは強い想いから生まれる」ということが、乃が美の成功ストーリーからよく伝わってきます。「どうせなら多くの人に愛されて、歴史に残る日本一のものをつくりたい」という熱い想いが、「ふわふわのおいしいパンをつくろう」という具体的なビジョンにつながり、その結果として、誰もがおいしいと納得する商品が誕生しました。まさに、「たくさんの人を幸せにしたい」という強い想いが乃が美のブランド力の基盤になっているわけです。

 

②  圧倒的な商品力で惹きつける。

お客様がお金を出してくれるのは、あくまでも商品に対してです。「ふわふわのおいしいパンをつくろう」という想いから挑戦して2年。徹底した素材へのこだわりと妥協しないモノづくりがこれまでの食パンの概念を超えた新しい価値を生み出しました。通常の食パンの倍以上の価格でも、提供する価値がそのお値段以上であるとお客様が納得してくれれば、お客様は喜んで買ってくれます。そして常連さんになり、やがてはファンになってくれます。強いブランドの核は、あくまでも強い商品力であることを乃が美は教えてくれています。

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③  ネーミングに込められた願い。

乃が美という名前にも、創業者の熱い想いが込められています。「乃」には「すなわち、まさしく」という意味があり、「美」には「姿、色が美しい。感動、美味い」という意味があるそうです。

ここから、「すなわち、日本一美味しい食パンをお届けする」「まさしく、食パンを通して日本一の感動をお届けする」という揺るぎない信念を込めた「乃が美」というネーミングが生まれました。

熱い想いを込めたネーミングは、多くの人に感動を与えることにつながります。

 

④  老舗のような雰囲気を醸し出す。

阪上社長は長い飲食店経営から「長く愛されるのは、老舗で強い一品のあるところ」という本質を学んだといいます。そこで、老舗和菓子店をイメージした、伝統を感じる筆文字のロゴを制作。またおみやげや差し入れにも喜ばれる白い紙袋にもこだわりました。私の場合、街で乃が美の紙袋を持っている人を見かけると、思わず柔らかでもちもちした食感が頭の中に浮かび、また買いに行こうという気持ちになるから不思議です。中身はもちろんですが、ロゴや紙袋もブランドイメージを想起させるためには重要な要素になります。

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⑤  本当に美味いものがある老舗には立地が悪くても人は集まる。

大阪上本町にある創業の店、乃が美総本店は、駅から歩いて約5分。大きな通りからちょっと奥に入ったひっそりした裏路地に店舗を構えています。私が訪れた時も、グーグルマップを見ながら結構迷いながら店にたどり着いたことを覚えています。このように、乃が美の店の大半はひっそりした路地裏に位置していますが、ふわふわの柔らかいパンを求めて、立地には関係なく毎日多くの人が訪れています。ブランド力が強ければ、その魅力に人は自然に惹きつけられます。

 

⑥  地域に愛される「地元のパン屋さん」を目指す。

今や、47都道府県に189店舗を展開する乃が美ですが、目指しているのはナショナルブランドではなく、地域の人たちに愛される「地元のパン屋さん」です。大量生産は絶対にしないことを約束し、今後も「パン工場」を併設した店舗の展開を目指していきます。どの店にもひとつひとつ手作りで焼き上げた食パンを並べることをミッションにしている乃が美。いつまでも創業の気持ちを持ち続けることが、強いブランドづくりの基本となります。

 

⑦  評判を信頼につなげる。

乃が美の店内には、2017年から2019年まで3年連続で、「Yahoo!検索大賞 食品部門賞」を受賞したことや雑誌で『日本の食パン、名品10本。』に取り上げられたことを伝えるポスターが貼られています。お客様からのよい評判を武器に安心や信頼を深めていくことは、強いブランドを育てていく上でとても重要な取り組みになります。

 

以上、高級「生」食パン専門店『乃が美』から学ぶ小さな会社のブランディングについて解説してきました。どんな会社やお店も最初はゼロからのスタートです。ただ、スタート地点で、「世の中をよくしたい、多くの人を幸せにしたい」という強い想いがあるかどうかが、ブランディングが成功するための肝といえます。