女性客から愛される!ライフバリューマーケティング。

今や消費の8割以上の決定権を握ると言われる「女性生活者」から選ばれ、愛され続けるためのマーケティングのヒントをお届けしています。

阪神百貨店梅田本店建て替えオープンにみる、これからの流通業のあり方

みなさんこんにちは。ライフバリューマーケティングの和田康彦です。

6月1日に、大阪梅田の阪神百貨店が進めていた建て替え工事の第一期棟が完成し待望のオープンとなりました。私は、6月3日の日曜日、新しくなった阪神百貨店梅田本店を訪れました。

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◆バブル崩壊以降衰退する百貨店業界
1957年に誕生した阪神百貨店梅田本店は人間でいえば61歳。高度経済成長期に生まれた百貨店は、モノを買う場としての役割はもちろん、まだまだ娯楽の少なかった消費者にとって一日を楽しく過ごせるレジャー施設としての役割も担っていました。屋上にはメリーゴーランドや観覧車などの遊具を備えたミニ遊園地があり休日には家族連れで大勢の人が押し寄せました。そして、屋上で遊んだ後は、最上階にある大食堂で家族各々が好きなものを注文する。私も小さいころ、年に数回電車やバスで1時間余りかけて行った百貨店で食べたお子様ランチの上にのった国旗やプリン、おもちゃのことが今でもうれしかった思い出として残っています。亡くなった父は決まってカキフライと日本酒を注文するのが定番でした。そして母はといえばとんかつが大好物だったようです。そして食事をした後は館内をウインドウショッピングしながらぶらり散策することが、当時の憧れのライフスタイルだったといえます。その後、百貨店業界は半歩先行くライフスタイル提案やファッショントレンドを発信する生活提案企業として私たちの生活を豊かにすることに大きく貢献してくれました。百貨店業界は1980年代後半のバブル時代は売上高が急増し、最盛期(1990年)には12兆円の市場規模まで拡大。ところが近年は5兆円台と約半分にまで落ち込んでいます。百貨店の売上が減少してきた理由は、バブル崩壊による景気の悪化や、少子高齢化による内需減少、などの日本のマクロ経済要因が根底にあります。加えて近年では、イオンモールなどの大型ショッピングセンターが増えている事やアウトレット業態の増加、ユニクロやZARAなどファストファッションの拡大、アマゾン・楽天などのネットショッピングが浸透してきた影響など、百貨店を取り巻く環境がここ20年くらいの間に大きく変化してきたことも大きな要因です。加えて、タンスやクローゼットの中には着なくなった服がびっしり。必要なものはほとんどが手に入り、欲しいものがなくなったという消費者心理の変化も見逃せません。

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経済産業省「商業動態統計調査」より 

◆阪神百貨店梅田本店リニューアルコンセプトは「毎日が幸せになる百貨店」
そんな中、阪神百貨店梅田本店が建て替え第一期棟オープンに際して打ち出したコンセプトは「毎日が幸せになる百貨店」です。これまで以上に品揃えの充実をはかることはもちろん、ただ商品を提供するだけでなく、さまざまなイベントを通じて、ライフスタイルの提案を行うことで、都心の一等地にふさわしい存在感と競争力のある商業施設を目指す。ということが主旨のようです。グループ会社の阪急百貨店がハイグレードなファッションを中心とした非日常の幸せを提案することで多くの支持を集めている中、創業時から食の阪神として愛されてきた阪神百貨店が改めて目指すのは、日常の幸せを提供するという原点回帰といえます。

◆SENSE OF ESSENS 自分を磨いて、充実させるために
これまでの阪神の庶民的なイメージを覆すようなおしゃれでセンスの良いタブロイドチラシには、以下のような宣誓文が掲載されています。
「~SENSE OF ESSENS 自分を磨いて、充実させるために~ 阪神百貨店が、梅田の地に本格的デパートメントストアとして誕生したのは1957年。高度経済成長期がはじまったばかりの頃で、百貨店はモノを売ればよかった時代が続いてきたのかもしれません。それから60年余。6月1日にオープンする阪神百貨店建て替え第一期棟は、開業当初とはまた違った、今の時代にあったスタイルが必要だと考えます。

暮らしのなかで、自分を磨いたり、高めたり、充実させることができるように。そのためには、ものごとの本質や真髄をしっかり見すえたり、感じたりできたらいいですね。「SENSE OF ESSENS」とは、そんな、チカラや感覚のこと。新しい阪神百貨店では、ただ商品を提供するだけでなく、訪れてくれた人が“自分充足”できるような百貨店を目指します。」

チラシのセンスといい、コピーの内容といい、とても素敵だと思いました。そうそう、ただ商品を提供するだけでなく、百貨店がお客さまひとりひとりの”自分充足”できる場になっていくことこそ、今の生活者の誰もが求めていることじゃないでしょうか。

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◆「自己実現」のお手伝いをすることがこれからの流通業が目指すべき方向
ご存知の方も多いと思いますが、アメリカの心理学者マズローは欲求の五段階説を唱えました。人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲するとされるという考え方です。生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、飲みたい、寝たいなど)という「生理的欲求」が最もベースにあり、その上には、危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたいという「安全の欲求」。さらに、集団に属したい、仲間が欲しいという「社会的欲求」。他者から認められたい、尊敬されたいという「尊厳の欲求」が続き、最も上層部には、自分の能力を引き出し創造的活動がしたいという「自己実現の欲求」が位置付けられています。現代は、生理的欲求や安全欲求は満たされ、社会的欲求や尊厳欲求、自己実現欲求を満たしたいと考える生活者が増えてきている時代です。社会的欲求を満たすために地域や趣味のコミュニティに属する。尊厳の欲求を満たすために、SNSでたくさんの「いいね!」を獲得できるように投稿内容を工夫する。自己実現欲求を満たすために、手作りなどの作品をネット上の販売サイトに登録して自分の能力やスキルを世の中に認めてもらう。このように社会が成熟するにつれ、自分の能力を引き出し創造的な活動したいという自己実現欲求はますます高まってくることは確実で、流通業が生き残っていくためにも、お客さまひとりひとりの自己実現のお手伝いをしていくことがますます重要になってくると思われます。そんな意味で、今回阪神百貨店梅田本店が打ち出した「SENSE OF ESSENS 自分を磨いて、充実させるために」というキーワードはこれから10年20年先にも通用する普遍的なコンセプトだと思えるのです。

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◆食関連売上を50%に
阪神百貨店は創業時から「食の阪神」と言われ、お客さまから親しまれてきた長い歴史があります。その結果、百貨店業界全体では全売り上げに対する食関連売上は約28%前後と言われている中、阪神の食関連売上比率は約45%と突出しています。今回のリニューアルでは、その食の強さにさらに磨きをかけて売上比率を50%まで上げていこうという大きな目標を掲げているようです。

◆高級ハンバーガーVS立ち食いスナックパーク。多様化する食ニーズに応える売り場づくり
今回の建て替え第一期棟オープンの目玉はやはり「食関連売場の充実」です。その一つが、ニューヨーク発の良質ハンバーガーレストラン「シェイクシャック」の関西初出店です。御堂筋に面した1階のサウステラスには、ガラス張りでオープンカフェも楽しめるおしゃれな空間が出現。新しもの好きな関西人にとっては一体何ができたんだろう?と興味津々でお店を覗き込んでいる光景が印象的でした。このレストラン、3年前に東京外苑前にオープン。こだわりの食材を供給することが難しく、3年かけてようやく準備が整い関西初出店にこぎつけたという鳴り物入りのハンバーガーレストランです。ニューヨークの高級老舗レストランが、地元の公園を活性化させようと、カートから始めたホットドックやハンバーガーが売りで、食材にはホルモン剤を使わない貴重なアンザス牛を使っているとのこと。ハンバーガーで710円(税抜)、ホットドッグで610円(税抜)という価格はちょっとした贅沢を味わうには手頃な価格といえそうです。また、ハンバーガーに合うビールまでわざわざ醸造所と協同開発するというこだわりにも共感できます。

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さて、食の阪神といえば「いか焼き」で慣れ親しまれてきた立ち食いの聖地、「スナックパーク」です。その伝説のスナックパークが今回のリニューアルで3年ぶりにオープン。初日から多くのファンが押し寄せて賑わっています。「阪神名物 いか焼き」をはじめ、カドヤ食堂の中華そば、お好み焼き、焼きそばの「道頓堀赤鬼」、立ち食い寿司「魚がし日本一」、海老天丼「天ぷらの山」などの関西の名店が軒を連ね、昼時には500円前後でおなか一杯になるランチを目掛けて近隣のサラリーマンや買い物ついでの主婦で連日大繁盛のようです。また夜は午後10時まで開店、仕事帰りのサラリーマンや働く女性がちょっと一杯楽しめるごきげんな酒場として喜ばれています。

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従来の阪神百貨店のイメージはどちらかといえば「庶民的」なイメージが強かったものの、今回のリニューアルではその良さを残しつつ、シェイクシャックのような良質な食を提供することで多様化する食ニーズを満たそういう考え方が読み取れます。昨今はひとりの生活者のなかにも、例えば節約とプチ贅沢といった2極化するニーズを持ち合わせる人が多くなっています。そんな複雑化するニーズに応えていくことでファンのすそ野を広げていくことは、阪神のみならず多くの流通業で今後重要なテーマになっていくでしょう。

◆おいしいパンとワインで毎日の幸せを応援する
ハンバーガーレストラン「シェイクシャック」と隣接する1階売り場には、パンとワインが集結する「デパイチ」と呼ばれる食品売り場が誕生。これまでは食品売場といえば「デパ地下」が常道でしたがその常識を覆して1階にも食品売り場を設けたのは、さすが食の阪神!と言わざるをえません。パンマルシェと呼ぶ売り場では、週替わりで約7ブランドが登場するパンイベントや毎日約15ブランドの食パンが登場する食パンのセレクトショップが登場。このところの高級食パンブームを背景に、話題になっているおいしいパンを食べてみたいという女性心を刺激します。またワイン売り場もさらに拡大。約400種類のワインの試飲が楽しめるというから驚きです。
おいしいパンやワインには幸せな気分にさせてくれる魔法が隠されているように思います。そんな魔法でこれから多くのお客さまを幸せにしていきたい。そんな阪神百貨店の考え方には大いに賛成です。

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◆ワークショップやイベントで素敵なライフスタイルを提案
食以外にも今回のリニューアルでは新たな挑戦が随所でみられます。特に「いいな!」と思うのがワークショップやイベントの開催を通しての「コト消費」への対応です。ヨガ教室あり料理の実演あり、トークショーありと売場の随所で楽しくてためになるイベントが目白押しです。毎日どこかで面白いイベントが開かれている。そんなイメージが根付いていくことでお客さまは自然に阪神百貨店に足が向いていくのではないでしょうか。

◆愉しい、面白い、役に立つ
私はこれからの流通業が目指すべきキーワードは「愉しい、面白い、役に立つ」に凝縮されるのではないかと考えています。何も買いたいものがなくても訪れるだけで気持ちが愉快になり、面白いものや情報に出会える。そしてそこで過ごした時間がまさに自分を磨いて充実させるために役に立つ。そんなお店が増えてくれば、アマゾンをはじめとしたネット販売勢力にも十分立ち向かうことができ、共生していけるのではないでしょか。モノを販売することばかり考えるのでなく、お客さまを楽しませてお役に立つという「おもてなしする精神」こそがこれからの流通業の生き残りのキーワードです。